戦コンスキルは起業に役立つか?~プロマネ編~(5):提案からプロジェクト獲得に向けて

AUTHOR :  網野 知博

プロジェクトのテーマ・背景・ゴール、テーマに対するクライアントの課題認識の理解

前回は仮説構築に関して熱い想いを記載させて頂きました。仮説、特に長並列型仮説思考はプロジェクトをマネジメントする立場の人にとって必須のスキルであり、逆に言えばこのスキルを身につけることが、コンサルタントがプロジェクトマネジメントにて学べる最も最高の経験であり、また起業後にも役立つスキルであると考えております。その長並列型仮説思考を最も活かせるのが本日説明を行っていく提案〜プロジェクト獲得に向けた活動になります。

本日は提案からプロジェクト獲得に向けての活動を説明していきたいと思います。第2回の「戦略立案プロジェクトが始まるまで 前編」でも触れましたが、クライアントに相談を受けてからプロジェクトの獲得に至るまで活動は以下の様な流れになります。また、第3回ではどちらかと言うと、コンサルティングファームの内部事情を中心に話を進めて行きました。本日は相談を受けてから、それらを正しく理解するための活動を中心に話を進めて行きます。

なお、実際の提案書の書き方に関しては「コンサルタントの提案書に学ぶ 営業思考の 7 Step」を参考にして頂ければと思います。

 

proposal

相談内容から、「テーマ(主題)」「背景」「ゴール」を明確にする

テーマ:このプロジェクトのお題目になります。

背景:このプロジェクトのお題目を検討すべきと思うに至った経緯などです。

ゴール:最終的に成し遂げたいこと、そのためにこのプロジェクトで成し遂げたいことになります。

ここで最初にすべきなのは、ゴールを明確にすることではなく、背景を存分に理解し、テーマに対するクライアントの課題認識を把握することになります。まずは背景になります。この時点に至るまでに様々な紆余曲折も含めた出来事が存在していたはずです。つまり、今現在の状態と、その状態に対する打ち手は今まで脈々と培われてきた流れを踏まえてのことになります。こういった事業を、現時点というスナップショットで切り取って、何かが合っている、間違っていると判断することはあまり得策ではありません。大げさに言えば、そこに至るまでの歴史があるため、背景を理解するということが非常に重要になります。そういった背景の理解があってこそ、テーマに対峙していくことができます。実はクライアントから与えられるテーマが正しいと言う保証はありません。テーマに関してクライアントが抱えている課題認識、及びその背景というものを明確にして、整理していくことにより本当に考えるべきテーマにたどり着いて行くことができます。

こういった経験は起業後にも非常に役立ちます。何か解決策を検討するお題目が現れた際に、その背景やそこに至る経緯をそもそも論から考えることによって、実はテーマが違ってくるということも往々にして起こりえます。スタートアップベンチャーはスピードが命ですが、間違った方向や間違った内容の展開を拙速に行うことは、正しいスピードとは言えないため、こういった冷静な検討を行うことは非常に有用です。

「テーマ」は「問い」ではない

そして、もう一つ重要な点があります。テーマを明確にしたところで、そのテーマ自身は問いではないという点です。第2回でも触れましたが、提案をするまでの本当の難しさは「答えるべき問い」を見出すことになります。

コンサルティングの提案書は「方法論」を説明しても売れることはあまりありません。しかし、提案書に答えを書く必要もありませんし、その時点の答えを書いてもあまり意味がありません。ではどうすべきなのでしょうか?

提案に向けては、「何を考えるべきか」そして、「答えるべき問いは何か」を明確にすることが重要になります。その上で、「ゴール」に至るまでの論理的なつながりを創造すること、そしてプロジェクトの方向性やアプローチなどを意識しながら、全体観をイメージすることになります。

これができれば、プロジェクトを受注できる可能性が大幅に高まりますし、また受注後のデリバリーにおいても失敗のリスクが大幅に下がります。この一連の作業を自ら先頭に立ち、指揮できる役割こそがプロジェクトマネージャーになります。

私がコンサルティングファームに所属している時に上司に何度となく言われたことがあります。

「プロジェクトをデリバリーするよりも、提案書を書く方が数倍も高いコンサルティングの能力が必要である。また、提案書を書く(正確には、クライアントの相談から入り、提案に至るまで)ことが実はコンサルタントとして一番勉強になる」という事です。

提案書はいわばプロジェクトが凝縮されたミニプロジェクトそのものです。そういったものを、あまり時間をかけて状況が見極められていない中で、「何を考えるべきか」「答えるべき問いは何か」を明らかにして、また「長並列型仮説思考」を用いたりしながら、「テーマ」「背景」「ゴール」を設定していくことになります。

このプロジェクトマネージャーとしての一連の提案書作成能力が身についていれば、おそらくは起業後に多くの事業課題に対面しても何とか苦難に対処していくことができるのではないかと想定しています。ですが、残念ながら、都合よく提案書作成の能力だけを身につけることはできず、実際のデリバリーをプロジェクトマネージャーとして何度も何度も繰り返し経験することにより培われる能力でもあるのです。提案書を表面的にどのように書いていけばよいかは身につけられますが、相談内容から本質的な問いに答えていくためには多くの修行を必要とするのです。

というわけで、次回からはそのプロジェクトのデリバリーに入って行きます。次回はプロジェクトが立ち上がってからの内容を説明して行きます。

第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び
第2回:戦略立案プロジェクトの始まり 前編
第3回:戦略立案プロジェクトの始まり 後編
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り ⇒次回
第7回:プロジェクト中盤
第8回:プロジェクト終盤(報告前)
第9回:プロジェクト最終報告

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